犬
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気が付くとたくさんのゴミの上で眠っていた。
起き上がって辺りを見渡すが、見えるのはゴミの山ばかりだった。
灰色の空から何か冷たいものが降ってきた。
嫌ではなかったけど、寒くなってきたのでそれを凌げる場所まで歩くことにした。
身体が重い・・・
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いくら歩いても進んだ気がしない。
何故こんな所にいるんだろう?
もう歩くのが嫌になった時、そう思った。
しかし、脳が正常に機能していないのか、何も思い出せなかった。
思い出そうとする事さえ嫌になった。
何も考えず、このまま永遠に眠っていられたら。
どんなにいいだろう。
そう思って、ゴミの上に倒れ込んだ。
泣いている空を見上げた。
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勿体無いなあ。
笑えばもっと綺麗だろうに。
そして、瞼を閉じた。
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何だかポカポカと暖かい。
もしかして、笑ってくれているのかな?
その笑顔、見てみたいなあ。
だけど、眩しくて目を開けられなかった。
自分の身体に強く命令する。
眩しい。
ゆっくりと目を開けていった。
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笑っていたのは。
背中に羽を生やした・・・
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気が付くと灰色の世界に包まれて眠っていた。
空は泣いたままだ。
さっきのは夢だったのか・・・?
きっと俺は、夢と現実をはっきりさせる為の脳みそを、空の涙で溶かされたんだ。
父母の顔どころか、自分の事すら何も覚えていないのもそのせいだ。
まだぼーっとしている頭のまま、夢の中では笑いかけてくれていた空を見ていると。
どこからか、声が聞こえてきた。
声がした方を見てみると、可愛らしい少女が立っていた。
少女は、何も言わずに行ってしまった。
俺は、走って少女を追いかけた。
どこにそんな力が残っていたのか。
自分で驚いた。
なぜ、必死になって見ず知らずの少女を追いかけたのか。
自分でも分からない。
ただ、絶対に見失ってはいけない気がした。
それだけだった。
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少女は大人になった。
大人になって、手を赤く染めた。
俺と彼女は、小さな家で静かに暮らした。
彼女は少し年を取った。
俺はとても幸せだった。
その幸せを壊そうとする奴らが来た。
俺から天使を取り上げようとする。
そんな事はさせない。
襲いかかって牙を立てた。
俺が守らないと。
少してこずったが、全て片付け終えてほっとしながら彼女に近づく。
彼女はずっと叫んでいる。
怖かったんだろう。
大丈夫。
何が来たって、必ず俺が守るから。
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次の日、目を覚ますと彼女は冷たくなっていた。
いくら声をかけても、彼女は起きなかった。
口のまわりが赤く汚れていたので、舌で舐めてきれいにした。
その後は、彼女が目覚めたとき寂しくない様に、ずっと傍に付いて居た。
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何日か経って。
赤黒くなった床の上。
痩せた女性と、彼女が飼っていたらしい犬が、寄り添って横たわっているのが見つかった。
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