ツインズ
ある小さな町に、とても仲の悪い双子の姉妹が住んでいました。 姉はハナ、妹はミツといいます。 二人は町で一番の美人でしたが、相手が自分と同じくらい美しいことが気に入りません。だから、二人は、いつもケンカばかりしていました。 ハナとミツの向かいの家には、幼なじみの兄弟が住んでいました。 兄はハネ、弟はツバサといいます。 ハネとツバサは、二人がケンカをする度に止めに入ります。 今日もまたハナとミツは朝っぱらから大ゲンカを始めました。 「ハナもミツも、ケンカは止めなよ。」 「そうだよ。姉妹なんだから・・・」 「ほっといて!」 二人はちっとも話を聞こうとしません。 ハネもツバサも、これ以上二人の言い争う姿を見たくなかったので、悩んだ末に、森の魔女の力を借りに行くことにしました。 魔女ならば、魔法で何とかしてくれると思ったのです。 魔女のエンヤは、森の奥のまた奥に、たった一人で住んでいました。 町の住人は、怖がって、誰も森の奥まで行こうとする者はいません。 でも、二人は、勇気を出して森の奥へと入っていきました。 森の道を進むと、あたりはズンズン暗くなっていきました。怖くて怖くて、もう引き返そうかと思ったそのとき、魔女エンヤの家が現れました。「捕まえられて、食べられてしまうかも・・・」と、怖くて仕方がなかったのですが、ハナとミツの笑顔のため、二人は勇気を振り絞って言いました。 「どうか、力を貸して下さい!」 「幼なじみの女の子のケンカを止めさせたいんです!」 ドアが開いて、中から声がしました。「・・・、話してごらん。」
魔女は、話を聞き終わると、「よろしい。あなた方の願いをかなえてあげよう。」と言いました。 二人はほっとして、家に帰っていきました。 その夜、エンヤはハナとミツの家へ行って、二人に魔法をかけました。 二人の体はひとつになって、頭がウサギに変わりました。 「心配しなくても、仲直りをすれば元に戻れます。ハナは夜の間だけ、ミツは昼の間だけ動けますから、一度独りになって、お互いの存在の大切さを考えなさい。」 そういうと、エンヤは消えてしまい、あとにはびっくりして目を丸くしている、ウサギ頭の女の子一人だけが、部屋に残りました。 次の日の朝、ミツは自分の顔を見て驚きました。ウサギになっているのです。 そこでやっと、エンヤに魔法をかけられたことを思い出しました。 「ハナがいつも言うことをきかないから、こんなことになったのよ!全部ハナのせいだわ!」 夜になって、ハナも自分の顔を見て驚きました。 「ミツがいつも泣いてばかりいるから、こんなことになったんだわ!ミツのせいよ!」 二人は、こうなった責任を全部相手に押しつけて怒りました。 仲直りするどころか、二人は何かにつけて衝突し、相手の悪口ばかりを言うようになりました。 そんな二人を見て、ハネとツバサは手紙を書きました。ハネはハナに、ツバサはミツに。自分たちがどんなに二人のことを好きか、そんな二人がいがみ合うのをみてどんなに悲しんでいるか、そしてどんなに二人に仲良くなってほしいと思っているか・・・。 ハネとツバサの、心のこもった手紙が届いても、二人が仲直りをすることはありませんでした。 「こんな頭じゃ、外にも出られない。友達とも遊べないし、つまらないわ。それに、流れ星を探して夜空を眺めるのが好きなのに、太陽が出てちゃ、星が見えないわ。どうして私は昼で、ハナが夜なの!」 「みんな眠っているから、おしゃべりできないし、真っ暗だから、鳥もお花も見えなくて寂しいじゃない。きっとミツは、ウサギ頭でみんなから注目されて、自分ばっかり楽しい思いをしてるんだわ。何で私が昼じゃないのよ!」 お互いにうらやましがっているなんて知らない二人は、相手のことを恨んでばかり・・・。 1ケ月経ったある日、エンヤは、昼と夜のちょうど真ん中である夕方に、二人を一旦元に戻しました。 「どうやら、あんた達は仲直りする気はないようね。じゃあ、こうしようじゃない。あんた達のどちらか一人だけを元に戻してあげよう。ただし、もう一人の魂を私にくれるという条件でね。どうかしら、いい考えでしょう?返事は明日の夕方まで。どちらかを選ばないと、一生その姿のままだからね。」 そして、また二人の体をひとつにして消えていきました。 ハナは夜の間中ずっと、どう答えようか考え続けました。夜明けが近くなった頃、ハナはハネの手紙のことばを思い出しました。 「たった一人の妹なんだから・・・」 ミツも昼の間中、ずっとどう答えようか考え続けました。夕暮れが近くなった頃、ミツはツバサの手紙のことばを思い出しました。 「たった一人の姉なんだから・・・」 夕方、エンヤが二人の前に現れました。 「さあ、どうするのかしら、お二人さん?」 エンヤは意地悪く言いました。 ハナは意を決して大声で叫びました。 「私の魂をあげる!だから、ミツを元に戻して!」 驚いて目を丸くしているミツに背を向けて、エンヤは呪文を唱え始めました。 「ハナ、やめて!」 ミツは、今にも泣き出しそうな声で叫びました。 「ミツ、泣かないで。」 「ハナ!」 ミツは、ハナを止めようとしましたが、足が震えてその場から動けません。 ハナは目をつむって、たった一人の妹に心の中でお別れを言いました。ミツがいつものように大声で泣いている姿が見えましたが、そのうち何も分からなくなりました。 朝、ミツが目を覚ますと、隣にはハナがスヤスヤと眠っていました。
エンヤは、二人に仲直りのきっかけを与えるために、あんなことを言ったのでした。 ハナとミツは、「もうケンカをしない」と三人に約束しました。それからは、ハナとミツは町一番の仲良し姉妹になりました。
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